スリッパが苦手である。他人の家に招かれてスリッパを履いていても、いつのまにかすっと脱いでしまっていて、綺麗な床に脂の足跡(湿気の足跡……だと思いたい)を残してしまう。家の中に居てまで、ゴワゴワした感触で床を踏みたくないんである。まあ、和風スタイルの環境で育ったので、スリッパを履く習慣がないだけとも言えるが……。

そんなわけで、素足や靴下で床を歩いたり、床にすぐ寝転ぶような私には、床は大事だ。だが、フローリングってのは大体ペタペタするものだし、冬はひんやりだけどカーペットなりを敷けば冷たさはなくなる。そういう気持ちを常々もっていたので、正直、床のことなんて、あまり考えたことがなかった。が、いろいろとモデルハウスを見ていると、床の存在が居住空間の雰囲気に与える影響って割合と大きいなぁ、と。まあ、モデルハウスは家具がないので余計にそう思うのかもしれないけれど。友人の家を見て、いい床の滑らかさに感銘を受けたのもある。

無垢板にするのか、しないのか。これが最初の大雑把な選択肢になる。無垢板だと床暖房を入れるのに、少し支障が出る場合があるようだ。あとは、経年による反りや隙間が開いてくるのが少し心配だ。多少の汚れ防止はあるかもしれないが、無垢の感触を十分に生かせば生かすほど、汚れにはいささか弱い。そして、無垢床にこだわりのない人間にとっては、高い。

かといって合板にプリント柄を入れただけもいささか寂しい。最近のプリントは技術が高くて、汚れにも強いし風合いも全然悪くない。しかし、プリントである以上、パターンは繰返しになって単調なものになる。そして手触りがやはりそっけない。

そこで、その中庸を攻めようということになる。突き板を表面に貼った合板だ。
私は、ハウスメーカーの勧めもあって、朝日ウッドテックのライブナチュラルを検討した。無垢のようにたくさん種類があるわけではないが、特徴のある幾つかの種類の木材の中から選択することができる。サンプルを見せてもらったが、サイズが小さいのと、サンプル毎の色合いのバラツキや経時変化を考えるとどうもイメージが湧かなかった。そこで、ショールームへ行ってじっくり見てみることにした。
ショールームでは実際に床にしてあるので、やはり広い面積でのイメージは得やすかった。一方で、照明が暗めで暖色系(電球色)が多いので、リビングなど明るい部屋の床としての色合いはよく分からない。窓際の光の当たっている床とは全然色合いが違っていた。なので、濃いなぁと思う色も、実際にはもっと明るくなるはずと思うことにした。

ライブナチュラルは突き板の厚みによってシリーズが分かれてくる。まずは(消去法になるのだが)プレミアムを捨てた。突き板が厚くて最も無垢に近いのだが、高過ぎる。風合いの最上感を除けば、突き板の厚みは板間の溝の深さにしか効いてこない、と思う。その深さがまた味を出しているんだが、ゴミが溜まりやすいなぁという極めて庶民的なネガティブ感覚も。但し、ウォルナットは、実際に見て本当にいいなと思った。書斎や客間の床にお金を掛けられるのなら、検討する価値は確かにある。

次にリミテッドを捨てる。希少な種類で他人と違うものができるのは良いが、好みの種類でなかった。
そして、最後にエクストラワイドを泣く泣く捨てる。幅広はゆったりどっしりとしている。そのどっしりさは無垢的でもある。初めの頃から幅広だけは妥協するつもりはなかった。なかった、のだが費用が……。寸法が特殊なので、部屋に合わせるのにどうしても余分な量がいるらしい。また、若干単価が高いというのもある。実際、本当にショールームで見ながら何十分も悩んだ。やるべきかやらざるべきか、ショーならぬショールームのハムレットは独り脂汗をかいて懊悩する。
で、結局止めたのだ。というのも、選ぼうとしていた木目種の『ブラックチェリー』は、柄が明瞭でまたそれぞれの板の差異が大きいため、幅の狭い板の方がモザイク調になって面白い。……まあ、そう思い込むことで納得することにした。

最終的には、標準シリーズのライブナチュラルになった。木目は上述のようにブラックチェリー。ハードメイプルやシカモアは明るすぎて落ち着かなく、ブラックウォルナットは色が深すぎる。オークは木目や色の出具合が読みきれず、プリント合板にありがちな柄と色であるため、特徴が出せるかどうか。孟宗竹はリビングにはどうかな、と。そんなわけでブラックチェリー。

場所はリビングとそこに続く玄関まで。全部はとてもお金がもたない。それに、DAIKENの『ハピアフロア』シリーズは標準で使用される予定だが、ティーブラウン色などは見映えが良く、敢えて変えにいく必要性も感じられなかった。寝室はダルブラウン色でいささかシックに。人によっては、寝室の床の方をむしろグレードアップしたいのかもしれないが、私たちの場合、寝床にパワーをかける気は少なかったので。
これで、何とか床が落ち着いた。